鎌倉なんでもベスト3。其の二は、「庭園」について。
美しい仏像との出会い、丹精込めて育てられた境内のお花の観賞、とお寺めぐりの楽しみは尽きませんが、立派なお庭を拝観するのも、お寺めぐりの楽しみの一つですね。
しかし、京都などと比べると、鎌倉には見るべき庭が少ないと言われています。それはなぜでしょうか。まずは、日本の庭園の歴史を少し調べてみましょう。
◆平安時代
平安時代、京都では寝殿造庭園や浄土式庭園と呼ばれる庭園が盛んに造られました。
「寝殿造庭園」というのは、平安貴族が住んだ「寝殿造」の屋敷に付随する庭園のこと。絵巻物などに、池に船を浮かべて管弦の宴を催している絵がありますが、まさにあのような庭園のことです。代表的な遺構として、京都の神泉苑があります。
平安時代後期になって主流となるのが、この時代に流行った浄土信仰に基づく「浄土式庭園」。
お釈迦様が亡くなって、2000年目からの世の中は「末法の世」という仏の救いが及ばない世になる、というのがいわゆる「末法思想」。末法の世に生まれ、現世では救われないのなら、せめて死んだ後は阿弥陀様の主宰する極楽浄土に行き、幸せになろうというのが「浄土信仰」で、平安貴族たちは、なんとか極楽浄土に生まれ変わろうと、それは必死だったようです。
極楽浄土に生まれ変わるために、貴族たちは2つのことをがんばりました。1つは、念仏を唱えること。もう1つは、自分が行く極楽浄土の様子を頭の中に思い浮べてイメージトレーニングをすること。このイメージトレーニングのために造ったのが、「浄土式庭園」なのですね。自分の思い描く理想の極楽浄土の様子を庭園に現し、こういう場所に生まれ変わるんだ、とイメージトしたわけです。平等院鳳凰堂の庭園は、関白・藤原頼通が思い描いた極楽浄土です。
このように、寝殿造・浄土式庭園が盛んに造られた平安時代ですが、この時代、鎌倉はまだ地方の田舎町。寝殿造庭園や浄土式庭園が造られることは、もちろんありませんでした。
◆鎌倉時代
鎌倉時代になって、中国から新しく入ってきたのが、「禅」の教え。禅宗は鎌倉幕府が保護したこともあり、建長寺や円覚寺など、禅宗の大寺院が建立され、鎌倉で大発展します。
「禅」は仏教の教えですが、禅宗のお坊さんたちによって、さまざまな「禅宗様」の文化も発展します。そのひとつが禅宗様の庭園。平安時代の寝殿造りの庭園が、「大和絵」的な穏やかなものだとすると、禅宗様の庭園は「禅」の思想を表現する、非常に厳しいもの。絵に例えるなら枯淡の墨で描いた「水墨画」に近いでしょうか。
では、鎌倉時代になってすぐに禅宗様の優れた庭園がたくさん鎌倉に造られたかというと、そうでもありません。禅宗様の庭園を様式的に完成させたのは、夢窓国師というお坊さん。この人は、京都の西芳寺(苔寺)や、天龍寺の庭園など傑作を数多く残しました。
しかし、夢窓国師は鎌倉末期から室町初期の人物。しかも、夢窓国師の晩年の傑作というのは、足利将軍家の命によって京都で造られている。このような事情が、鎌倉には見るべき庭園が少ないと言うことにつながっているのです。
<鎌倉の庭園ベスト3>
確かに、歴史的に価値のある優れた庭園は少ない鎌倉ではありますが、全く見るべきものがないかと言えば、そんなこともありません。私が、鎌倉の優れた庭園として挙げたいのが、「瑞泉寺の庭園」、「海蔵寺の庭園」、「報国寺の庭園」です。
◆瑞泉寺の庭園
瑞泉寺を開いたのは夢窓国師で、本堂裏の庭も夢窓国師の作。この庭の位置づけは、後年、京都で造る苔寺や天龍寺の庭園のプロトタイプ的なものと言えるでしょう。
岩肌にポカンと口を開ける大小の穴と、水草の生えた池。はじめてこの庭を見た人は、一見、何を表現しているのか分からず、戸惑ってしまうかもしれません。しかし、よくよく観察すれば、仙人が住む深山の洞窟、流れ落ちる滝、海に向って急流から大河へと変化する水の流れ、そういった大自然の変化が、禅の厳しい思想に裏打ちされて表現されているのに気付くと思います。
規模こそ小さいですが、やはり作庭の天才・夢窓国師の作品。一見の価値ありです。
◆海蔵寺の庭(非公開)
こちらのお庭は、残念ながら非公開ですが、先日、私の主宰するNHK学園の講座で特別に見せていただく機会があり、とても素晴らしいお庭で感動しました。
このお庭は、今の和尚さんが趣味で(ご本人談)で造っていらっしゃるもので、歴史的なものではありません。しかしながら、深山幽谷から流れ出た水が大海に模した池に流れ込む様子を、お寺の裏山を上手に借景として使いつつ見事に表現しており、素晴らしい出来栄えになっています。
禅寺の庭らしさ、ということで言えば、鎌倉ナンバーワンかもしれないですね。
◆報国寺の庭園
一風変わった竹林の庭。青々とした孟宗竹の鮮明な風景の中を涼やかに吹きぬける風。風が吹き抜けた後、笹の葉がサワサワとささやくような心地よい音を立てる。。。
この庭は、外国人に「日本の風情というのは、こういうもんだよ」と教えるときに、ちょうどピッタリ。
麗らかで幻想的な春の早朝、夏の午前の心地よさ、秋の昼下がりの美しさ、冬の夕暮れの寂しさ。。。誰もが心の奥底に持っている日本人の心を思い出すために時折訪れたい、そんなお庭です。
さて、これも順位付けはとても難しいですが、鎌倉の庭園ベスト3は、
1位:報国寺の庭園
2位:瑞泉寺の庭園
3位:海蔵寺の庭園
というところでしょうか。
このほか、日本庭園ではありませんが、鎌倉文学館のローズガーデン(イングリッシュ・ガーデン)は、5月には春バラで一杯になります。イベントも行われるので、ぜひ訪れてみてください。